アイリーン 第一章 -リッカルード-
幕間
コンコン
静かな部屋に、不意にノックの音が響いた。
「入れ」
短く告げて、また視線を手元の書類に落とす。
ノブが回る音がし、次いで静かにドアが開いた。
「仰っていた夜会の件、調べが着きました。五日後に別宅で、大々的に催される予定です」
読んでいた書類をパサリと伏せ、執事である男に視線を移す。
「招待客は約百名と予想。そのうちの大半が富豪か大商人、残りの少数が政治家でしょう」
「で、彼女は」
分かっているくせに、焦らす目の前の男に、軽く苛立ちを覚える。
癖で、トントンと指で膝を叩いた。
「中に入ったことは確認しております。最近出された中に彼女の顔はなかったので、まだ順調にいっていると言えるでしょう」
小刻みに動く指は収まらない。
「顔として出される女中は、若い者と決まっております。そう心配しなくても彼女が夜会に顔を出すのは確実ですよ」
無言で睨み付けると、相手は呆れたようなため息を吐いた。
やれやれと言った形で首を振る。
「最高級の衣装を用意させます。備品もすべてに手を凝らせることにしましょう」
「派手にはするなよ」
「仰せのままに」
深く一礼すると、男は綺麗にきびすを返して部屋を去っていった。
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