アイリーン 第一章 -リッカルード-

21.吐きそう

 

なんでこうなったんだ。
呆然としてその場に立ち尽くしていた。

「さっ、次はウエストを締めますよ」

うっ。
苦しい。
かなりギュッとなっている。
吐きそうだ。
いや、むしろ胃が出てきそうだ。

「これに腕を通して、少し裾を引っ張っていたたげますか」

何やら胴回りでもぞもぞと手が動いて、こそばゆい。


って、結局何でこんな風にされるがまま、人形状態となっているかというと、数十分前に遡る。




「じゃあまた後でね」
「へ?」

リッカを追ってきた俺は、いくつか並んだドアの一つまで付いてきて、隣のドアを開けるように促された。

「えっと…準備をするんですよね?」
「うん。パーティーのね」
「ってことは正装を」
「するんだよ」

ぐるぐる必死に違う部屋にやられるわけを考えていた。

「じゃあ、私は手伝いを」
「僕を手伝ってどうするの。君も着替えなきゃ意味がないだろう」




というわけで、今に至るわけだが、未だに俺が着替えないといけない意味がわからない。
しかも最近やっと慣れてきた下着を難なくはずされ、胸を寄せて上げて、今度はきつめに着けられた。
しかもその次に胴をコルセットで締め上げられているので、かなりきっつい。
元々、俺は健康不良児なので、これだけ締められれば骨が変形しそうで怖い。
肋骨が内巻きになっていそうだ。

こんなことを言うと、世の中の乙女に殺されそうだが、俺は痩せたくてこんなにガリになったわけじゃない。
家は貧乏なので、元からそんな豪勢な食事が出るわけではないのだが、更に言えば、俺が不出来な子供だったために、食事抜きになることが時たまあった。
食欲は並にあるし、成長期でもあるので、食事を抜けばそれだけ痩せた。
それにも慣れた今は、空腹感とはお友達状態で、ちょっとやそっと食べなくても大丈夫だけど。

だけど、イーグルと一緒にいる時はきちんと、家じゃ考えられないような量を食べていたし、嬉しそうにその様子を眺めているイーグルを見ていると、自然と食は進んでいた。
誰かと摂る食事の大切さを改めて実感したものだ。

それが今は食欲を増進させるどころか、また後退気味だ。
食事を残すなんて、実家じゃ殺されそうなことを、こっちに来てから毎日してしまっている。
贅沢になってしまった胃袋に、俺はほとほと困り果てていた。
 


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