アイリーン 第一章 -リッカルード-

24.不意打ち


俺は、理解できないまま、ほとんど抱えられるようにして、その場を離れた。

会場では、戸惑う人々が散り散りに走り回り、押し寄せるように出口に群がった。
俺はそんな集団の流れに逆らい、テラスへと知らずに運ばれ、どうするのかと考える前に

「わっ」

姫だっこされた。
しかもドレスだから、本当の姫だっこだ。

「しっかり掴まっててね」

イーグルが耳元でそう囁いたかと思うと

「わぁ!いや、まずいだろ。やめやめやめやめ」

ぎゃー――――!!

ぴょいとそこから飛び降りた!
だっこされたままでも急降下しているのがわかる。
だってここ3階だぞ!?

落ちた衝撃は、腕を伝ってなんとなく分かったが…
それでも弱くないか?
恐る恐る目を開けると、イーグルの顔が近くて驚いた。
それに、周りは…
なんだこれ…布?
カーテン?
その大きな布は、何枚も重ねられて、植え込みの上に無造作に敷かれていた。
低木の上に掛けられたカーテンは、まるでソファみたいだ。
もちろん、本物のソファなわけはないから、それなりに痛いのだろうけど…

はっとして俺は飛び退いた。

「イーグル!大丈夫?」

俺の下敷きになっていたイーグルが、低く呻いた。

「…そんなに勢い良く飛び退かないでほしかったな」
「ご、ごめん。まだ痛い?」

申し訳ないことをしたと、慌てて近寄った。
あの、人形のように綺麗な顔と体に傷なんてついてしまったら、俺自身悔やんでも悔やみきれない。
伺うように覗き込む。

「わっ」

くいっと引っ張られて、イーグルの胸の上に、収まるように抱きしめられた。

「しばらくこうやってたら大丈夫になるかも」

そんな悠長な。
でも嫌じゃなかった。
だから、少し暴れても腕が緩まないのを知って、すぐに抵抗をやめた。
上の喧騒はまだ止んでいない。
でも…

「早く逃げないと」

ちっちゃく呟いただけだったが、なんとか分かってくれたみたいだ。
ゆっくりと二人して体を起こす。
少しだけ、寂しく感じた。

と、また腕を引かれた。
体勢がまた逆戻りに

ちゅっ

「今はこれで我慢する」

艶やかな笑みを見せて、すぐに顔が離れた。



 
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