アイリーン 第一章 -リッカルード-
26.意外な事実
翌朝、フェイさんを交えて三人で話をした
リッカは結局捕まったらしい。
らしいと言っても、イーザさんの情報なので、きっと確かなのだろう。
不正製造薬品取扱容疑、らしい。
何それ?
俺、馬鹿だから分からないよ。
「アイリーンは馬鹿なんじゃなくて、世間知らずなんだよ」
結構な言われようだと思うが、なかなか的を射た意見なので、強ち否定できない。
悔しい。
「そんな膨れっ面しない」
ぎゅっと鼻を摘まれ、ふゅっと変な声が出た。
「要するに麻薬の取引だよ」
ま、麻薬…。
そんな危ないことをしてたのか。
「まだ未確認の麻薬だから、薬品だってことにされてるけどね。リッカルード本人が常用していたわけじゃないから、摂取した時の症状も分からないみたいだし」
ちょっとほっとした。
リッカは確かに変わってるけど、それが薬のせいだなんて思いたくなかった。
「麻薬も時には薬として使われることがあるから、簡単に罪だと裁くこともできないんです」
鎮痛剤、精神安定剤として、多大な効力を発揮する。
…ただし、副作用は否めないけれど。
フェイさんがそう教えてくれた。
「ラトレア本家は認知してなかったらしい。裁かれるとしても、リッカルードのみだろうな。また、それもラトレアの力でうやむやにされるかもしれないけどな」
淡々と、イーグルはそう語った。
ラトレアとオセロットが対立しているという事実からすると、今回はオセロット家に軍配が上がったということか。
…にしては、うれしそうじゃないな。
「アイリーン」
「…なに?」
ぼーっとしていたらしい。
いつの間にかフェイさんがいなくなっていた。
キョロキョロと周りを見渡していた俺に近付き、隣に座り込んだ。ソファが少し沈んだ。
「アイリーン…」
ぎゅっとされた。
わわわっ。
押し倒すな!
もがく俺を無視して
「ちゃんと前の依頼主には報告しといたから」
とんでもない発言をした。
「え…」
「ロンメルだろ」
ギョッとして固まったのに気付いたのか、イーグルが俺の肩を持って体を離した。
「な、ななんで」
俺言ってないよね?
「なんでって…」
イーグルは何故か嫌そうに眉をしかめていた。
「従兄弟だからね」
「…………」
「アイリーン?」
完全に固まっていたと思う。
だってさ、従兄弟?
従兄弟って言ったらあれだよね?
血が繋がってるわけだよね?
親が兄弟、あるいは姉妹だったりするんだよね?
に…
似てない!!!!
ものっ凄く似てないよ!!
「似てないだろ?」
俺の心の叫びを聞き取ったのか、イーグルが自嘲気味にそう言った。
俺は激しく同意して、できる限りの速さで頷き返した。
「あいつは鬱陶しいほど熱い男だからな」
そう、俺の元依頼主、ロンメルは熱血漢で、非常に熱い男だった。
表現がかぶっても仕方がない。
兎に角、熱かったのだ。
顔だって、濃い。
イーグルも濃い顔をしているけれど、彫りが深いという程度だ。
ロンメルは違う。
言い換えれば、濃ゆい。
くどい。
顔からも内面の熱さが伝わってくる。
「あいつといると、昔から非常に疲れるんだ」
げっそりとしてイーグルが言う。
ああ、意外と繊細そうだものね。
「…頼むから、ああいう奴が好みだなんて言ってくれるなよ。俺はあいつみたいにはどうしてもなれないからな」
「…仲悪いの?」
「悪いと言うか」
そこで言葉を詰まらせ、本当に嫌そうに顔をしかめた。
「生理的に受け付けない」
相当な言われようだ。
イーグルを見ると、本当にだめなようだ。
話している今でさえ、顔色が青い。
「あいつの話はやめよう…」
可哀相なので、そうすることにした。
しばらく経ってから、会話が途切れたときに切り出した。
「あの…フェイさんは?」
「ああ」
彼はあれからずっと戻って来ない。
仕事だろうか?
「やっぱり聞いてなかったな」
「へ?」
何を?
「フェイは今、お前の弟…なんて言ったっけな」
「カイン?」
「そう。そのカインと連絡を取ろうとしてるんだよ」
カインと…
会えるの?
胸がほこほこしてきた。
「…フクザツ……」
ポツリとこぼした言葉は、俺にはよく聞こえなかった。
「…俺も会いたいな」
見ると、イーグルが何だか不思議に目を光らせていた。
何でだ?
でも…
「会ってほしいな…」
二人が会った姿は想像できなかったけれど、俺はその時、すごく楽しみな気がしてたんだ。
心の奥に潜む、胸騒ぎには気付かずに―…
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