アイリーン 第二章 -カイン-
1.優しくして
「やっ、やだっ」
「大丈夫だよ。優しくするから」
「あっ、だめっ!だめだってばっ…あっ!」
静かな部屋に、二人の声と、僅かな水音が響く。
「あっ、いっ、痛…っ!」
「ごめんね。痛いのなんてすぐだから」
「あっあっ」
くっと痛みに目を閉じる。
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バタン!!
「もうっ。怪我の手当くらいちゃんとドアを閉めてからしてください!」
シシィがドアを後ろ手に閉めて、こっちを睨み付けた。
「開いてたなんて、知らなかったよ」
俺の隣の男が爽やかに笑って言った。
「…シシィ、なんで顔赤いの?」
キョトンとして聞くと、ぐっとシシィが詰まった。
「なんでもないですっ!」
シシィの顔が更に赤くなった。
…何だ?
「はい、アイリーン。終わったよ」
ぽんと膝を叩かれて、はっとして見ると、確かに膝には絆創膏が貼られていた。
近くには消毒液の瓶と、ガーゼとピンセットが置かれている。
「ね?すぐだったでしょ?」
イーグルが無駄にキラキラした顔で言った。
本当に無駄に眩しい。
「痛かったよ。さっきは本当に染みたんだから」
「はいはい」
大げさだなぁと言って笑う。
失礼な、本当に痛かったんだぞ。
一度自分も味わってみたらいいんだ。
「そうですよっ。大げさです!」
シシィはまだ憤慨している。
半分本気のようで怖い。
そんなに怒らなくても…
「それで?シシィ、何か用か?」
イーグルがシシィに問い掛けた。
その言葉にはっとして、シシィの顔が焦りを含んだものに変わった。
「そ、そうでした!イーグル様に面会の問い合わせが来ています」
シシィがそう言うと、イーグルは難しい顔をして黙り込んでしまった。
「どうせ“ヤツ”なんだろう?」
はぁっと本当に嫌そうな顔をした。
「はい。ロンメル様です」
「……………わかった」
…なんなんだ。
その間は。
従兄弟なんじゃないのか?
どうやらこの前言っていたことは本当らしく、相当苦手なようだ。
「………はぁ」
そんなにイヤなの?
そんなにあからさまに溜め息をつくほど?
俺の胸にも一抹の不安がよぎった。
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