アイリーン 第二章 -カイン-

2.有り得ない!



俺は呆気にとられていた。


「は?」

目の前にはやたらにこにこした男。

「ですから、お茶に誘っているんですよ」
「はぁ……」

脈絡がなさすぎてわかないが、どうやらお茶に誘われているらしいことはわかった。

「だから何故…」
「僕はただお嬢さんとお茶が飲みたいだけなのですが…いけませんか?」

いけませんか、と言われても、街の往来でいきなり呼び止められた身としては、いけませんと言いたくなるのはしょうがないじゃないか。
素直にごめんなさいと言うつもりだった。
いくら脈絡がなくてもきちんと謝るべきだろう。

「ごめ…」
「もちろん驕りますから」
「いや、私は」
「いい店を知ってるんです」
「ですから、」
「意外とここから近いんですよ」

聞けよ!

って言おうとしても、やっぱり聞いてくれなくて、腕を取られて強引に連れて行かれる。
非力な俺じゃ到底かなわない。
って言うか、こいつがかなりの馬鹿力なんだ。

「ちょっ、ちょっ」
「さぁ、早く行きましょう!」

マジでちゃんと聞きやがれ。
プッツンしようにも、こんな引きずられたままじゃ、うまくしゃべることすらできない。
しかも、こんな無理やり連れ去られそうになっているというのに、ギャラリーはスルーしまくりだ。
ちらちらと見ているくせに、俺が助けを求めて視線を合わすと、すぐにばっと逸らされた。

…みんな冷たい。
信じられない思いで、現実の厳しさを受け止めていた。




そうやって連れ込まれた店の中。

…弾丸トークだ。
さっきから俺は一言も発せずにいた。
俺が聞いているかどうかは別にどうでもいいのか、それともこのスピードについていけるということを前提で話しているのか…。
どっちにしろ、俺はこいつの話の半分も聞けていなかった。

だから

「君はどう思う?」

と聞かれても大変困るんですが…。

「どうって言われても」
「やっぱり君もそう思うだろう?実はこの話にはまだ続きがあって…」

答えを求めていたわけではないらしい。
ちょっとムッときた。
別に俺じゃなくてもいいじゃんか。

ガタン!

俺がいきなり席を立ったので、周りの視線が一気に集まったのがわかった。

「帰らせてもらいます」

代金…はいらないよな。
驕るって言われたし。
さっさと店内を早足で通り抜けて、カランカランと乾いた音のするベルの付いたドアをくぐった。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

後ろから呼び止める声がするけど、そんなの無視だ、無視。
今立ち止まったら、またあのマシンガントークに捕まってしまう。
俺は振り返らずに、さっさと歩いた。

「ま、待ってってば!」

結構しつこい。
しかも向こうは俺を呼び止めるために声を上げているから、俺たちはかなり目立っていた。
通り過ぎる人たちがみんなじろじろ見ていく。

「待って!」

女の足で勝てるはずもなく、ついに追い付かれた。
そして、がしっと腕を捕まれる。

抵抗しなきゃ――…!!

「やめてくだ…」
「アイリーン?」

救いの声だった。

「イーグル!」

きっと帰りの遅い俺を心配して、見に来てくれたんだろう。
かなり過保護だけど…この場合はむしろ感謝だ。

「イーグル……」

ぱっと男の腕を払って、イーグルに駆け寄った。
イーグルもこちらに近付いてくる。

「大丈夫?どうした?」
「なんかわかんないけど、あの人が無理やり…」
「どいつ?」

急に怖い顔をして、俺の背後に固まったままのヤツを睨む。
殺人ビームだ。

あれ…?
でも静かだ……。


「ロンメル…………」


俺も固まってしまった。
こんな偶然ってありですか?
 



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