アイリーン 第二章 -カイン-
3.おまけ
こんな偶然があるなんて……
「いやぁ、偶然だなぁ!」
それはこっちのセリフです。
「……………」
あらら。
向こうのでっかいのはマシンガントークだというのに、こっちのでかいのは一気に無口になってしまった。
さっきから口を開いてはため息ばっかりで、一向にしゃべろうとしない。
ロンメルはそんなこと気にもとめてない様子で、一人喋りまくっているわけだが…。
さっき入っていた喫茶店にまた出戻りして、俺とイーグルが並んで座る前に、ロンメルが座っている。
4人席の対面型だ。
「………アイリーン…」
ぽそっと呟かれた。
「…なに?」
仕方がないので、ぽそっと呟き返す。
「…ロンメルのこと知っていたんじゃないの?」
「え?…あ、ああ。俺が依頼されたのはロンメルはロンメルでも、この人じゃないよ。もっと老けてた」
「老け…」
老けてたって言うのは言いすぎかもしれないが、こんなに若くない。
中年親父とはいかないまでも、「若いですね」と言えるレベルではなかった。
でも、目の前のこの男はどう見たって俺より少し上くらいにしか見えない。
だからコイツは…誰?って感じだ。
「親父さんだな」
え…
あの人が!?
「若かっただろ?」
頷くと、
「18の時の子供だからな」
18!?
来年だよ!
「でも、親父さんと似てなかったよ?」
「……親父さん髭面だしな…。でもその髭がなかったらそっくりだぞ」
「ええっ!?そぉなの?」
相変わらずぼそぼそと話していると、まるで内緒話みたいだ。
目前の男の大音量にかき消されそうなので、下手すると聞き逃してしまう。
「こらっ、そこ!何2人でコソコソしてるんだ」
ついに見つかった。
…今まで気付かなかったのも不思議だけど。
「しかし、意外だなぁ。こんな可愛らしい女の子だとは」
「……何が言いたい」
イーグルはさっきから何をそんなに険悪になっているのか…まぁ、向こうはなんとも思っていないみたいだけど。
「だって、ほら。イーグルの今までの女って…
いてっ!!」
ロンメルは急に机の下に手をやった。
「何を…
「それはこっちの台詞だ。たまには黙っとけ」
おおっと。
不機嫌さが増しちゃったよ。
どうやら水面下ならぬ机面下でやりとりが行われていたみたいだが、まあ、その手の話題はもう追及した後だしな。
すごいね、俺。
もう免疫できちゃったよ。
「だって本当のことじゃないか」
「本当のことでも黙っとけ」
本当のことなのね。
さすが従兄弟。
ほぼ以心伝心だ。
「ところで一体何の用で来たんだ。こんなとこに別に用もないだろ」
いまだに足を押さえているロンメルに向かって、イーグルが睨みながらそう言った。
「おや。せっかく従兄弟が遠路はるばるやってきたというのに、なんて言い種だ」
「それが気色悪いんだ」
おおっと!
辛口だな。
「残念ながら、今回は君に、というよりはそちらのお嬢さんに用事があって来たんだよ」
…おおっと?
いきなりこっちに回ってきたぞ?
「私に…ですか?」
今ではもうすっかり、オセロット家の人たちの前以外では、きっちりと言葉を使い分けるようになっていた。
一人称だって間違えないもんね!
「そう。まぁ、僕はいわゆるオマケでね」
そろそろかな、と言ってちらりと入り口の方を見やった。
俺たちもつられてそっちを見る。
なるほど、カランカランと軽快にドアがなって、人が入ってきた。
逆光で顔はよく見えないが…背が高い。
イーグルの方がまだ高いかな?
「こっちだ」
ロンメルが手を挙げたのに気づいて、その人物がゆっくりとこちらに近付いてきた。
「おい、ロバート!なんなんだ、いきなり。こんなとこに呼び出して…」
…あれ……?
この声って…
不意に光が収まって、顔がよく見えるようになった。
「…カイン…………」
掠れて自分の耳にもよく聞こえなかった。
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