嘘つきな彼女
3.強情な彼女
「んっ、あっ」
「良い声」
耳元で殺人的な声で囁かれ、わたしの中がずくりと疼いた。
ラグの上で押し倒され、キスと手だけで一度達してしまったわたしを、自分は息一つ乱さずに、軽々と持ち上げてベッドへと運んだ。
セミダブルのベッドなんてもらわなきゃ良かった。自分の狭い部屋の大部分を占めるベッドが、行為を進めているみたいで恥ずかしい。初めてこの部屋で抱かれた時、「ちょうどいい」なんて言われて顔から火が出るかと思った。まさかそんなわけはないと相手がわかっていても、自分が抱かれるのを期待していると思われそうで。
2DKの部屋を借りたのは、うちの会社が住宅手当を独身でも出してもらえるという点もあったが、本当は何かペットを飼おうかと思っていたからだった。でも、結局残業が多くて世話ができないとわかって断念したのだけれど。
初めてこの部屋を訪れた彼は、開口一番にわたしに恋人がいるのかと尋ねた。
それは仕方のないことかもしれない。わたしと同期の山崎は仲が良くて、プライベートでも親しくしていたから彼女がたまに泊まりに来ることもあったし、面倒くさがりの彼女が次に来る時用にと置いて行ったお茶わんや歯ブラシがあったからだ。
いないと答えると、しばらく黙って部屋を見渡していた。それからなぜか普通にわたしが作ったご飯を食べて、さも当然のようにこの部屋で初めて抱かれた。
「なんだ、余所事か?」
「あっ」
ぼんやりとベッドの上で昔を回想していたわたしを、彼は容赦なく責め立てた。
未だ服を着たままの彼を、恨めしくなって見上げる。わたしの視線に気付くと、なぜか嬉しそうにくつりと笑った。
「なに、言ってみ?」
「…んっ、ふっ、…」
「ふ?」
人に答えを求めておいて、責める手はやめない。迫りくる快感に耐えながら、睨むように彼を見た。
「ふ、く…っ、ぬ、いで…っ」
わたしの言葉に一瞬目を見開いて、苦しそうに眉根を寄せた。
「煽るなよ」
朦朧とする意識の中では、彼の言葉の意味も良く分からない。いや、いつだって彼の言葉の意味なんてこれっぽっちもわたしにはわからないのだけれど。
「後悔、すんなよ」
ばさり、と上の服を一気に脱ぎ去って、彼が覆いかぶさるようにわたしの上に乗った。だんだんと激しくなるキスの嵐。彼の舌が熱くて、私の口の中も熱くて、お互いの熱で溶けあって境目が分からなくなる。
「ん、んんーっっ」
キスをされたまま、また手だけで一度イかされる。休む間もなく与えられる、彼の熱。
「あっ、まだ、」
「もうだめ、我慢できない」
一気に押し上げられる感覚に、朦朧としていた意識が飛びそうになる。がくがくと震える体。絶え間なく訪れる快楽に、何も考えられなくなる。
何度白い世界を見たことか。こうやって、何度も何度も、彼の気のすむまで抱かれる。あまりに毎度激しいものだから、最初のうちは体力が持たなくてすぐに気を失っていた。…失神なんてしたの、初めてだったんだけど…。
「美亜、みあ」
彼はいつも、わたしを抱くとき何度も名前を呼ぶ。外では一切呼ばないのに、こんなときだけ呼ぶなんて卑怯だ。致してしまった後だって普段からは考えられないほど優しくて、勘違いしそうになる。恋人なんて甘ったるい関係、あるわけがないのに。
「美亜、気持ちいい?」
答えないと余計に激しくされるから、必死に頷き返す。一度恥ずかしがって言わなかったら、ひどい目に遭った。
「美亜」
「ああ、んっ、ふぅ」
「俺の名前、呼んで」
「んっ、や」
聞こえないふりをして、要求を無視する。激しく責め立てられたって、そんなことできるわけがない。名前を呼んでしまったら、今だって必死に押し殺しているこの感情が、一気に押し溢れてしまいそうで。だって、そんなの、本当の恋人みたいだ。
「呼ばないと、壊しちゃうかも」
「やぁっ、ダメ…!ああっ」
本当に壊されるんじゃないかと思うほど、容赦なく責め立て、わたしを追い詰める。
限界が来ても、彼の体力が尽きるまで、飽くことなく抱かれ続けた。
…次の日本当に立てず、休みとは言え寝たきりみたいな状態になった。
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