嘘つきな彼女

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  1.恥じらう彼女  

周りの視線を強烈に感じるのは、自意識過剰なのだろうか。
普段身の回りに気を使ったことなんてなかったから、周囲の目も一向に気にならなかった。見られていなかったと言っても良い。
それが今は慣れない格好をしているせいか、周りの視線が気になって仕方がない。おかしくない?わたし、間違ってない?
視線を下す。ふわふわと自分の視界の端に揺れて見えるのは、昨日買ったばかりのワンピース。ちょっと可愛すぎるくらいフェミニンで、私には似合わないんじゃないかと思うんだけど…。

『あんたは背が小さくて童顔なんだから、可愛い服の方が似合うわよ』

友人はいくつも試着した服の中から、絶対にこれだと言って私に押し付けた。心持ちそわそわしながらそれを着て、鏡に向かう。
見慣れないダークブラウンの髪。元が真っ黒だから、少し色を入れただけでずいぶんと違って見える。
「お洒落計画!」と山崎が叫んで最後に向かったのは美容院だった。
山崎ご用達の店で、カリスマなお兄さんが手早くカット、カラーをしてくれた。今朝もお兄さんに伝授された通りに頑張ってスタイリングした。
ついでにならった慣れない化粧。
眉の描き方、ラインの引き方、チークの入れ方、シャドウの塗り方、マスカラの付け方…。慣れないせいで、化粧だけに30分以上かかった。フルメイクをしたのなんて、生まれて初めてだ。
おかげで朝ご飯を食いっぱぐれることになったけれど、電車には間に合った。

会社に着いて、同僚や上司に挨拶をすると、唖然とされた。
見られていることに恥ずかしくなって急いで逃げたけれど……もしかして、やっぱり変?

「やっぱり私の見立てで間違いなかったわね」
不安になっていたところに友人が出勤してきた。少しだけ安心して、一緒に更衣室へと向かう。
「でも、すごく視線を感じるんだけど」
「そりゃそうでしょ。男性も女性も、色んな意味であんたを見てるわよ。あ、ホラ」
一際嬉しそうな声を上げた友人につられて、顔を上げた先にはあの男がいた。ものすごく驚いた顔をしている。

「あ」

と、不意に視線を逸らされた。それはもう、すごくあからさまに。
「あらら。あれは嫉妬心かしらね。それとも照れかしら」
嫉妬!?照れ!?
そのどちらも想像できなくて絶句してしまう。
「その両方ってのも有りね」

どっちもないから!



「桐島さん?」

席に着くと、意外な人に声をかけられた。
私のデスクの傍に立ってこっちを見ているのは、仕事ができる男で有名な営業二課の松永主任。あの俺様男と同期で、ライバル同士としても有名だ。
あっちが似非紳士なのに対して、松永主任は本当の紳士。二人ともルックスも仕事も同じくらいパーフェクト、と女子社員からの人気が高い。井関さんはそれが外面のものだとわかるけれど、この人の紳士ぶりは元来のものなのだろう。

「桐島さんのそれ、コンタクト?」
「え、あ、はい」
「ふぅん。イメージ変わるね。可愛いよ。あ、これってセクハラかな」
誉められることに慣れてないわたしは頬を染めた。
そんな私にくすくすと笑いを洩らす主任。…周りの視線が痛い。
「ごめん、ごめん。困らせるつもりはなかったんだけど」
「いえ、あの…ありがとうございます」
ごめんねともう一回私に謝った後、主任はがんばってと言って去っていった。
主任が去った後に…わたしのデスクに見慣れないアドレスが書いた紙。どうしたらいいかわからなくて紙をぼうっと見つめる。見慣れない文字の羅列。どう見ても、知った相手のものではない。

「桐島、仕事しろ」

隣の課のはずの奴がなぜか私のデスクの横を通り、素早く私の手から紙を奪った。
「井関主任っ」
俺様男は紙をひと睨みすると、近くのシュレッダーに放り込んだ。
「何するんですか」
「お前の知ってるヤツのアドレスか?」
「違いますけど…」
「なら問題ない」
って…横暴!



 
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